昼の香草庵昼の香草庵は、正直、拍子抜けするくらい普通だった。
駅から少し歩いたところにある小さな店で、
看板も主張が弱くて、
「ここで合ってるよな……?」って一度スマホを見るタイプのやつ。
中に入ると、
ハーブの匂いがする。
アロマショップってほど華やかじゃなくて、
薬局ほど清潔でもない、
なんとも言えない匂い。
カウンターの奥に人がいた。
若いのか、そうでもないのか分からない。
背は普通、服も地味。
第一印象は――
**無口そう。**
「いらっしゃいませ」
声は低め。
愛想は、ないわけじゃないけど、
盛ろうという気がまったくない。
こっちが棚を見てるあいだ、
必要以上に話しかけてこない。
これ、地味に助かる。
スプレーを一つ手に取って、
成分表示を読んでると、
「……香り、試します?」
必要なことだけ、短く。
試してみる。
嫌じゃない。
でも「癒される〜」ってほどでもない。
「部屋用ですか?」
「はい」
「じゃあ、これの方が軽いです」
理由の説明も、長くない。
営業トーク感が、ほぼゼロ。
会計のとき、
ふとカウンターの端に
補修された布小物が置いてあるのに気づいた。
縫い目が、妙に丁寧だ。
「これ、売り物ですか?」
「いえ」
即答。
「直しただけです」
それ以上、何も言わない。
袋を受け取って、
ありがとうございました、って言われて、
店を出る。
外に出てから、
なぜか少し振り返った。
別に、変な人じゃない。
むしろ感じはいい。
でも――
**印象が残らないのに、忘れにくい**。
あとでレシートを見ると、
店名のロゴが、少し掠れていた。
まあ、
そういうデザインなんだろう。
たぶん。
その夜、
部屋でスプレーを使ったとき、
一瞬だけ、
「ここじゃない場所」の気配がした気がした。
でも、気のせいだ。
昼のあの人は、
ただの店員だったし、
店も、普通だった。
……普通だった、はずだ。